【編集者が語る―Louisa's Books #3】ジョー、エイミー、ローリー、メグのファン必読『「若草物語」のルイザのヨーロッパ旅物語』:担当編集者、小林桂さん

【編集者が語る―Louisa’s Books】では、ルイザ・メイ・オルコットに関する書籍を企画した担当編集者が、本が出来上がるまでの裏話や本についての魅力をお教えします。

今回語ってくださったのは、名作『若草物語』に影響を与えた青年との出会いが描かれた短編と、ルイザの素顔を垣間見ることができる物語で構成された『「若草物語」のルイザのヨーロッパ旅物語』ご担当の悠書館編集者、小林桂さんです。

「カルチャーショック」と「ロマンチックな香り」―ルイザが見た旅を包括的にとらえた本を作りたい

企画は2021年、谷口由美子先生からお話をいただいてスタートしました。コロナ禍で旅行もままならない頃、せめて本の中で旅をと思われたのだとか。「ルイザのヨーロッパ旅物語」は、先生の最初のメールにあった言葉で、長く先生と本を作ってきた長岡(長岡正博・前代表)が、内容にふさわしいですね、と話していたそうです。

この本は、ルイザがヨーロッパ周遊旅行の想い出を綴った作品を訳して、解説と地図をそえたものです。旅は『若草物語』刊行の前後二回で、今回のメインは、妹メイと友人アリスの三人で出かけた二度目の旅を描いた『ショール・ストラップス』という小説。それに、一度目の旅のポーランド青年(ローリーのモデルのひとり)とのエピソードを別の短編から抜粋し、「ローリー」と題して収録しています。先生のレジュメを少しご紹介しましょう。

つまり、ルイザのヨーロッパの旅を包括的にとらえた本を作りたいということです。それも19世紀後半にルイザが見たままのヨーロッパの人々の生活、カルチャーショックを受けたルイザたちとの滑稽なやりとりなど、大変興味深い内容になると思います。日本ではこの物語集を訳した人はいませんし、こんな包括的な手間のかかる本を手掛けた人はアメリカでもいません。…(中略)…その旅物語は第2回目の旅の話なので、第1回目に出会ったポーランド青年とのロマンチックな香りのする話も訳し、名作『若草物語』との関連を解き明かしたいと思っています。

写真:カバーの銅版画は原書から。手荷物をまとめる“ショール・ストラップス”らしきひもやトランクも描かれています。飾り枠や本文中の小イラストは、ヴィクトリア朝の雰囲気をと、装幀の内藤正世さんが探してくれたものです(小林さん)

女性や弱い立場に向けるまなざし、”オタ活”、シビれる言葉…。ルイザがぐっと身近になる

原稿をいただいて、大人になった彼女たちの、のびのびとした、等身大の姿に出会ったような気がしました。中世の人物や、旅行時のイタリア統一など、歴史的な背景も地理も知識が追いつきませんでしたが、調べながら読み進めていくうちに、ルイザの素顔に触れる思いがしました。現地の女性や弱い立場にある人びとへのまなざし、嬉々としてディケンズゆかりの地をめぐる“オタ活”ぶりなど、今までよりも、ぐっとルイザを身近に感じました。女性たちへの呼びかけも、150年前とは思えず、シビれます。その魅力は、文芸評論家の斎藤美奈子先生の帯文がぴたりと表現されていますので、ぜひご覧ください。

小説形式ですが、ルイザの日記などをみると、実際にあったことがかなり反映されているようです。訪問先を検索するスマホ旅や、当時珍しい女性だけの自由旅行、『デイジー・ミラー』(H・ジェイムズ)の連想など、いろんな読み方もできると思います。

ともかく、三人娘の珍道中は、テンポの良いやりとりが楽しく、いきいきと訳されているので、きっと楽しんでいただけると思います。かつて写真集を作り、伝記も翻訳した谷口先生ならではの、ルイザ愛あふれる一冊です。ジャン・ターンクイスト館長やミルズ喜久子会長はじめ、オーチャード・ハウスミュージアムのご協力による、写真や肖像画、日本であまり紹介されていないメイのスケッチも見どころです。ゆかりの品々を借りて、「若草物語の世界展」を日本で開きたい、という夢もぜひ、実現しますように!

【今回ご紹介いただいた本】

『「若草物語」のルイザのヨーロッパ旅物語』(著:ルイザ・メイ・オルコット 構成・訳:谷口由美子)

出版社:悠書館

写真:カバーをはずすと、またカバー? じつは小口折り製本で、表紙の袖部分が折り込まれています。旅の本なので、持ち歩きやすいソフトカバーにしました(小林さん)

 

【担当編集者】

小林桂さん:悠書館

(若草物語クラブから小林さんへ質問)『若草物語』で一番好きな登場人物は?

ローリー(ルイザになった気持ちで)

【若草物語クラブ事務局から】

好奇心旺盛でユーモアたっぷりで、そしてピリッとシニカルな視点で社会を見ることができる、嘘偽りないルイザの魅力に満ちた1冊です。軽井沢でこの本をテーマにした講演会後、会場となったエホンゴホン堂店主が「どうして『若草物語』が好きだったのか、わかりました」と感想を述べられました。まさに子どもの時には気づくことができなかった名作の魅力再発見や登場人物に対する思いを再認識できる内容にもなっています。

同書には、これまで日本ではあまり紹介される機会がなかったオルコット家4女メイのイラストの数々も収められています。今回、オーチャード・ハウスミュージアムの協力で提供が実現した画家メイの才能あふれる作品もぜひお楽しみください。

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