【Interview】「人生の勉強となった大切な作品」――世界名作劇場『若草物語』シリーズ声優・山田栄子さんインタビュー

かつて日曜夜放送で長く愛されてきたテレビアニメシリーズ「世界名作劇場」。放送当時、リアルタイムや再放送でアニメの作品はもちろん、原作を読んでファンになったという方も多いのではないでしょうか。

その「世界名作劇場」シリーズで『愛の若草物語(1987年)』のジョオ、『若草物語 ナンとジョー先生(1993年)』でジョーの声を担当するなど、世界名作劇場はもちろん、日本を代表する声優として活躍している山田栄子さんに、作品制作当時の思い出や『若草物語』への思いなどについて聞きました。

(取材:2025年7月13日、神奈川県横浜市内、写真:齋藤寛樹・若草物語クラブ会計)

自然に演じることができた『愛の若草物語』のジョオ
山田栄子さん(左)とインタビュアー(若草物語クラブ書記・髙橋穂南)

——『若草物語』と初めて出会ったのはいつですか。どんな印象をもちましたか。

山田栄子さん(以下、山田さん):もちろん児童書では読んだことはありましたが、しっかり単行本で小説を読んだのはアニメ『愛の若草物語』を担当したことがきっかけでした。

故小原乃梨子さん(ドラえもんのび太役など、日本を代表する声優として活躍)が東京12チャンネル(現テレビ東京)で吹き替えをした『若草物語(1949年)』のジョー(俳優ジューン・アリスン)も好きだったので、後に私も同じ映画のジョー役をNHK版で吹き替えができたことも嬉しかったです。

アニメのジョオは、小説以上に元気な女の子だなぁ、と思いました。

——役作りで気を付けていたことはありましたか。

山田さん:ジョオは自然な感じで演じることができました。同じ世界名作劇場の『小公女セーラ(85年)』のラビニア役は、最初とても苦手で上手く出来ませんでした。プロデューサーの中島さんから、「あの子は意地悪なのではない。女の子特有の、いやらしさや可愛らしさがある、凄い女の子なんだよ、そこはもっと研究しなきゃね!」と言われました。

私は「あなたのことは嫌」と堂々とはっきりさせるタイプなので、ねちねちいじめるのがわからなくって、なかなか出来なくて難しい!と言いますと、「ねちねちじゃないんだよ、女の子なんだよ!!」って、再度駄目だしをされました!(笑)

今まで演じた中で、一番苦手だったのは「小公子セディ(88年)」のジェーン・ショートでした。ああいう優しく、控えめな尽くしキャラは私の中には無いもので、荘真由美ちゃん(『愛の若草物語』エリザベス・マーチ役)みたいな優しい話し方をする人が合っていたと思います。

ジョオを自然に演じることができたのは、自分に近いところがあったからかもしれませんね。

自分もこんな風に成長したい、と思った『若草物語 ナンとジョー先生』
『愛の若草物語』でエイミー役で共演した佐久間レイさんが作ったジョオの人形(写真撮影・提供:山田栄子さん)

——『愛の若草物語』の収録現場の様子はどうでしたか?

山田さん:とにかく楽しかったということが心に残っています。

佐久間レイちゃん(エイミー・マーチ役)は四姉妹それぞれに手作り人形をプレゼントしてくれて、そのジョオの人形は今も大切な宝物です。

潘恵子さん(マーガレット・マーチ役)は役柄のとおり、みんなのお姉さんのような存在で、レイちゃんも可愛い末っ子という感じでした。

当時のスタジオは新宿にあったので、毎週午後4~7時まであった収録後、必ず四姉妹や中西妙子さん(マーチ夫人役)、監督も一緒に繁華街に飲みに行って、本当に楽しかったですね。

収録の時にはまだ絵が出来上がっていないので、完成すると私はスタッフの皆さんと必ず完成品の映像を観に行ってました。他の役者さんたちは、皆さん誰も観に行く事はありません。それが普通なんです。

私は、赤毛のアンの時から、見に来るように指導されていたので、観に行くものだと思っていたのです。それで、ほとんどの作品は、完成品を観に行っていました。

——『愛の若草物語』に続き、『若草物語 ナンとジョー先生』が決まった時はどう思いましたか?

山田さん:『若草物語』に続編(『第三若草物語』)があることは「ナンとジョー先生」で知りました。実はお話をいただいた時は断ろうかと思っていました。その時、娘を妊娠していた時だったので難しいと思ったんです。

——それでもジョー役を引き受けたのは強い要望があったからですか?

山田さん:自分で演じたい、と思ったからです。

自由奔放な『愛の若草物語』のジョオと、『若草物語ナンとジョー先生』のジョーは全然違っていて、素晴らしい女性に成長していましたよね。自分もそうなりたい、こんな風に成長しなきゃ、でも、してないなぁ、と思いました。

放送時は妊娠、出産、そして子育てと忙しかったですが、一度も収録を休みませんでした。出産は帝王切開だったために予定が立てやすかったので、収録が終わってすぐ出産のために入院、というように、頑張りました。

『ナンとジョー先生』は私にとって、人生の勉強となった大切な作品です。

問題児ダンに対する扱いも「なるほどなぁ」と感心しました。特に、ダンが一度学園を去った時のジョーの対応が心に残っています。

ダンにもプライドもあるし、彼の気持ちもわかりますよね。ナンも、ジョーの心の助けのように感じていました。

心情を引き出すためになかなか台本で展開が明かされなかったベスの生死
手縫いした世界名作劇場『愛の若草物語』ジョオのモチーフがプリントされたトートバッグ。世界名作劇場をモチーフにしたグッズを制作・販売する企画が行われた時に、手芸デザイナーいいむらえつこさんが手縫いで表現したジョオがプリントされたバッグを購入したそうです。(写真撮影・提供:山田栄子さん、バッグ:手芸教室セーラ・クラフトいいむらえつこさんのブログはこちら

——おてんばな感じがジョーと似ていてソウルメイトみたいに見えますよね。思い出に残っている収録はありますか。

山田さん:録音が始まった当初、ベスは、映画と同じ運命だと聞かされていたので、41話まで私達姉妹は、ベスは天に召されるものと思っていました。それで監督に、「ベスを生かして!」と何度も詰め寄っていました。そして42話の台本でベスが助かったことを知り、みんなで泣いて喜んだことを覚えています。

その後、私が吹き替えをした映画では、ベスは天に召されてしまったので、それはそれで泣きましたけど(笑)。

監督たちは、私たちにはわざと知らせずに、本心からの心配や悲しみを引き出したかったとおっしゃっていました。感動のサプライズでしたね。

——自分に近いと思うキャラクター、好きなキャラクターは誰ですか。

山田さん:自分に近いのはジョオですね。メグにはちょっとなれない……。

『愛の若草物語』で印象的なエピソードは、やっぱりジョオが髪を売るところですね。私も髪を切ると思います。ただ、私はたぶんあんなに泣かないと思います。時代が違うので、女性の髪の重要さは違うでしょうけど。

でも、ジョオのそんな行動もメグがあってのことだと思います。しっかり者の姉がいるからこそ、ジョオは大胆な行動もしていけたんだと思います。

好きなのはベス。彼女は本当に天使ですよね。涙が出ちゃう。その後の若草物語で、どうして彼女は死ななければならなかったのかと思ってしまいます。実話が基とはいえ、物語なんだから助かってほしかったです。

——やはりジョー(ジョオ)としてはベスが可愛いですよね。エイミーには「生意気だな」と思ったりしたこともありましたか?

山田さん:でも可愛いでしょ。なんかすごく子供らしくて、やっぱ末っ子だなっていう感じ。それにレイちゃんがそんなに生意気にやってないから可愛かったですよね。

映画(1949年)でもエリザベス・テイラー(エイミー役、1949年版では3女)が綺麗だから許せちゃいますよね。

——今も当時のお仕事仲間との交流はありますか。

山田さん:みんなが忙しいので、なかなか会えていません。荘真由美ちゃんは一度仕事を辞めてしまったこともあります。私が「お子さんが産まれたら辞めた方がいいと思うよ」って言っちゃったんですよ。「え、本当にやめちゃったの」と言ったら、「だって、栄子さんそう言ったじゃないですか」って。そうですけど、本当に辞めちゃうなんて!

レイちゃんとは今でも交流がありますよ。故増岡弘さん(それいけ!アンパンマンのジャムおじさん、サザエさんのフグ田マスオ役などで活躍)が開いた味噌作りの会に集まっていたんです。増岡さんが亡くなる1年前まで毎年1回、声優仲間みんなで手作りをしたお味噌を持ち寄って品評会をしていて、実は私も2回優勝しているんですよ。ちゃんと大豆から作って、塩加減を工夫して作ってました。

集まった時は、みんなの作ったお味噌を少しずつ使った豚汁を作っていました。みんなの味噌を一緒にすると、出汁も何も入れなくてもすごくいい味がでるんですよ。いろんな方の味噌なので、黒っぽかったり、白っぽかったり、面白いですよね。

個性的な4姉妹の必ず誰かに共感できる『若草物語』

——『若草物語』が150年以上の間、幅広い世代から愛される理由は何だと思いますか。

山田さん:やっぱり4人が個性的で、「自分だったら……」と必ず誰かに共感できるところだと思います。あの4人が「姉妹」であることが羨ましい!

——今後「若草物語クラブ」に期待することはありますか?

山田さん:続編を知らない人もまだまだいると思います。せっかくのよい物語なので、もっとみんなに知ってもらえるように頑張ってください。

——ファンの方へ、メッセージはありますか。

山田さん:『愛の若草物語』をまた観てください。私も観返します。

これからお母さんになる人にはぜひ『若草物語 ナンとジョー先生』も観てほしいと思います。

山田さん(中央)とインタビュアー(髙橋)、カメラマン(若草物語クラブ会計・齋藤寛樹:左)


プロフィール

山田栄子(Eiko Yamada)

神奈川県出身。声優。世界名作劇場シリーズでは、若草物語シリーズ2作品と『赤毛のアン(79年)』アン・シャーリー役で主演を務めたほか、『小公女セーラ』など多数の作品に出演。海外映画の吹き替えも多く、舞台俳優としても活躍中。第18回声優アワード 功労賞。

インタビュアー

髙橋穂南(Honami Takahashi)

若草物語クラブ書記。学生時代に『若草物語』シリーズ4冊を読み、以来熱心なファン。原作はもちろん、アニメや映画、舞台も大好き。

齋藤寛樹(Hiroki Saito)

若草物語クラブ会計。『若草物語』と名の付く、講演やミュージカル、イベントなどを見つけると、全国どこでも駆けつけています。推しはジョー!

【インタビューの感想】

突然の取材依頼にも関わらず、山田さんには快くお引き受けしていただけました。幼い頃から親しんでいた、たくさんのアニメの登場人物が目の前にいらっしゃって、私の問いかけに返事をしてくださるというのはとても素敵な体験でした。

皆さんも愛したあのキャラクターのように、山田さんも素敵な方でした!ジョーのようにはっきりと明るい方でした!

これまでも山田さんが演じた好きなキャラクターはたくさんいましたが、山田さんご本人をさらに好きになる素晴らしい時間をご一緒させていただき、ありがとうございました。

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